[コラム]2023.9.14

【北海道】上富良野ホップ試験栽培100周年、札幌駅ナカに「SORACHI 1984」専門店も(前編)

協働契約栽培」を掲げるサッポロビールが北海道・上富良野町でホップ試験栽培を始めたのは大正時代の1923年。今年で実に100周年となります。その記念の年に、上富良野のホップ農場でサッポロビール主催のプレスツアーに参加してきました。また9月には、上富良野で誕生したホップ「ソラチエース」を使った「SORACHI 1984」専門のビールスタンドが、JR札幌駅構内にできました。「ホップの大地」である北海道での二つのできごとのレポートを、前後編に分けてお伝えいたします。

プレスツアー1日目:サッポロビール博物館と日本最大級のビアガーデン

7月下旬、サッポロビール主催の北海道プレスツアーに参加させていただきました。

筆者は札幌在住のため、東京などから来たプレス関係者と現地で合流。まずはサッポロビールの品種育成の歴史を知るためにサッポロビール博物館へ。栗原館長自らのご案内で、普段は見られない貴賓室の見学、そしてサッポロビールの歴史を「予習」します。

折しもこの時期札幌は大通公園でビアガーデンの季節。博物館からそのままサッポロビールのビアガーデンへ。会場全体で1万3000席を用意する日本最大のビアガーデンです。ミュンヘンのオクトーバーフェストにも決して引けを取らないその雰囲気に、道外からの参加者も圧倒されていました。

プレスツアー2日目:上富良野でのホップ栽培史の講演と実際のホップ圃場見学

翌日は、朝一番で札幌から上富良野へ向かいます。ダイレクトな高速道路はなく、2時間半をかけて辿り着きます。

上富良野町
富良野町は著名な富良野市とは別自治体です。また中間には中富良野町、南部には南富良野町という別の自治体もあり「富良野」は4つに分かれています。中富良野町、富良野市でも大麦の栽培は行われていますが、ホップを栽培しているのは上富良野町だけです

北海道在住である筆者は上富良野町のホップ畑見学はもう何度も体験しておりますが、毎回新しい経験と発見があります。ホップ栽培の最盛期に現場を訪れて空気を感じるという体験自体が素晴らしいということなのでしょう。

まずは大正時代に建てられた遺構も残る原料開発研究所で、ホップ開発の歴史についてのレクチャーを受けます。

サッポロビールのホップ栽培史

少々長くなりますが、サッポロビールのホップ栽培史についてレクチャーからまとめます。

開拓使がビール造りを始めたのは1876(明治9)年。自前の原料を使うという「協働契約栽培」に繋がる方針は、実はこの創業の時からありました。現在の札幌・北海道庁の前でホップ畑を設置したのを皮切りに、豊平川対岸で5ヘクタールの本格的なホップ栽培を始めます。奇しくも前者の場所には、現在クラフトビールの「月と太陽ブルーイング miredo店」があります。後者は開拓者の名(亭脩季)を取って「菊水」という地名となっています。札幌はあちらこちらにこのような「ビール遺産」が残っている街なのです。

地元産の原料によるビールは順調に定着するはずでした。ところが、技術力を向上させようとドイツから雇ったビール醸造師が「運命」を変えます。マックス・ポールマンというそのブルーマイスターは、地元産の原料使用をまったく受け入れず、ドイツ産ホップしか使わなくなるのです。菊水のホップ園も1889年には廃業してしまいました。ポールマンは現在の「サッポロ・ラガービール」に繋がる熱処理ビールを最初に造ったり、日本における黒ビールの元祖と言われる「サッポロ・エアランゲア」を造ったりなど、ブルワーとして大きな業績は残しますが、彼のおかげで地元産原料のビールは一回頓挫してしまいます。

その後、金井嘉五郎や矢木久太郎らの活躍で、日本人の手によるビール醸造を取り戻すことに成功すると、また国産ビール原料の開発に力を注ぎ始めます。1904(明治37)年に札幌・苗穂で1500株のホップ園が生まれ、1908(明治41)年には札幌・山鼻地区に広大なホップ園が開かれます。この地で篠原武雄らが優秀なホップを選別。それらのホップが長野県で品種栽培され、現在にも連なる国産ホップの礎となる「信州早生」が誕生します。

(苗穂のホップ園は「ホップ公園」として北8条東9丁目にその名をとどめています。山鼻のホップ園は、現在陸上自衛隊の札幌駐屯地となっています)

ホップ栽培はさらに新たな展開を見せ、1914年から順次北海道内16か所にて農業試験場を通じてホップ試作を開始していきます。富良野地方(現在の上富良野町)では1923年に試験栽培を開始、今年が100周年となるわけです。当地は東西を山地に挟まれた盆地で、「ほどよく寒く、ほどよく暖かい」気候がホップ栽培に適していることがわかり、1925年にサッポロビール直営のホップ園が開設されます。

それから1930年代から40年代にかけて、中国大陸での戦争によりホップの輸入が困難となり、上富良野での栽培面積は急速に拡大、第2次大戦中の1942年には国産ホップ100%をほぼ達成するほどとなります。終戦直後は生産量が落ちますが、戦後のビール需要拡大によりホップ生産量はまた伸びをみせ、1968年にピークを迎えます。しかしその後は、農産物自由化の流れとビール需要の急速な拡大により輸入ホップの割合が増えることとなり、国産ホップの生産量は落ちていきます。

上富良野町も現在は4軒のホップ農家が残るのみで、国産ホップの生産も主軸は東北(岩手・秋田)に移っています。

それでも上富良野のホップ園は品種開発の圃場として継続、数々の新品種を生み出しています。

上富良野で生まれたホップたち

この上富良野で生まれたホップからは、以下のような製品が開発されています。

上富良野町内限定発売の「まるごとかみふらの」にフラノスペシャルとフラノビューティ、ポッカサッポロから販売の「富良野ホップ炭酸⽔」にフラノビューティが使⽤されています。
リトルスター。今年発売されたNIPPON HOPシリーズ「希望のホップ」や、夏限定の「サッポロクラシック夏の爽快」に使用されています

いま世界を席巻するソラチエースはこの圃場で誕生したのです。

この日はSORACHI 1984のブリューイングデザイナーの新井健司さんも駆けつけてくださいました。

現地では、ソラチエースの生産拡大が始まっています。こちらの記事もご参照ください。

ホップ圃場見学

フィールドへも実際に足を運びました。育種開発のホップ畑で、さまざまなホップを実際に香りを嗅ぐことができました。

ホップの栽培史も含めて圃場の解説をしてくださったのは、フィールドマンの鯉江弘一朗さん
雌花の中の黄色い粒状の樹脂「ルプリン」が苦みや芳りの素となる成分を持ちます
フラノビューティ
フラノマジカル
リトルスター

香りの高いリトルスターは、多収で病気にも比較的強く、「つる下げ」という手間のかかる作業が不要な画期的なホップでした。「希望のホップ」と銘打たれ、NIPPON HOPシリーズからシングルホップビールがリリースもされました。

参考記事

この「リトルスター」の開発者である稲葉彰さんのホップ畑は別の場所にありますが、そこも見学できました。

現在稲葉さんの畑では、サッポロビール向けの「リトルスター」と、地元のクラフトビール「忽布古丹醸造」向けのホップを栽培しています。

1.5haの畑から、3トンのリトルスターが収穫されます。この稲葉さんのホップ畑は、1枚の畑としては国内最大規模だそうです。

このように、上富良野町では4軒のホップ農家が北海道で唯一の商用ホップを作り続けています。

他の3軒のホップ農家さんたちは、サッポロセブンプレミアムの「ホップ畑から」シリーズで過去にリリースされています

上富良野が生んだ世界的ホップ「ソラチエース」

そして、この「ホップのふるさと」上富良野の地で生まれた代表的なホップは、なんといってもこの「ソラチエース」でしょう。

品種登録証の現物。日付に注目。「9月5日」はソラチエース誕生祭の日です

半世紀前の1967年に起きたプロジェクト「新ホップ育種計画」から始まったホップ開発は、15年以上をかけて成果に行きつきます。

1984年9月5日、サッポロビールから2種類のホップが品種登録されました。一つは地名をそのまま取り「フラノエース」と名付けられました。もう一つは、上富良野町の郡名「空知郡」から「ソラチエース」と名付けられます。(※上富良野町は「上川」地方ですが、札幌と旭川の間に位置する「空知」の名前が付いているのは、郡名由来のためです)

フラノエースは国産のビールに採用されますが、特徴的な香りの強かったソラチエースは新品種開発のベース品種として活躍します。1990年代にアメリカへ渡ったソラチエースは、アメリカのホップが発展した2000年代初頭にダレン・ガメシュにより「再発見」され、エリシアン、ブルックリンなどがIPAを造ります。それがまた日本に「凱旋」し、2019年に「SORACHI 1984」として全国発売されました。

そのSORACHI 1984を専門に出すショップが「100周年」の今年9月1日JR札幌駅構内に誕生しました。後編ではその開店日レポートをお送りします。

後編はこちら

関連記事

「国産ソラチエース100%使用」という夢への第一歩 ~上富良野町でソラチエースの苗の植え付け体験

JR北海道SORACHI1984サッポロビールサッポロビール博物館上富良野北海道新井健司

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

坂巻 紀久雄

ビアジャーナリスト

東京都葛飾区出身。1998年ビアテイスターを取得。2000年に北海道札幌市へ移住。ビール専門店勤務で経験を積み、2013年にビールとモルトウイスキーの専門店「Maltheads(モルトヘッズ)」を開店。
https://maltheads.net/

店は「クラフトビールのお店」でも「世界のビールのお店」でもなく、「ビールの広い世界を実感できる店」をコンセプトとしている。

ビアジャーナリストとしては、北海道の記事を中心に執筆しているが、国内外を問わずビール全般を追っている。

札幌は、日本のビールの発祥地のひとつ。さらに「ビールの都」ドイツ・ミュンヘンと「ビール天国」アメリカ・オレゴン州ポートランドと姉妹都市でもある。そこを「日本のビールの首都」として盛り立てるべく奮闘中。

ビア検(日本ビール検定)1級(2013-14 初の2年連続合格者・2022年3度目の合格)/クラフトビアアソシエーション(CBA)認定ビアテイスター/ウイスキー検定2級

立ち上げから2023年まで「サッポロ・クラフト・ビア・フォレスト」実行委員
http://www.sapporo-craft-beer-forest.com/

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