【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 124~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ拾捌
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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「なぜって、こんな深夜に出かけるのを見かけちまったら、後をつけないわけにはいかないでしょう」
ねねはにっこりと笑いながら、つるを抱き起こす。
「明日にはまた出港なので、最後になつの顔でも見ておこうと思いまして。ほら、なつは川本のおっちゃんの家にいることが多いでしょう?飲んでた場所も近かったし、まずはそこから覗いとくかって思って立ち寄ったわけです」
だいぶ酒が入っているのだろう。ねねはいつもより饒舌で、その後ろには桃色の影が揺らぐのが見える。
「そしたら、つるが家を出るところが見えて……」
「おのれぇ!」
ケラケラと楽しそうに話すねねの後ろで、刀がギラリと光った。
「ねね!後ろ!」
小西が叫んで助けに入ろうとするも、その何秒も早く甚五平が男の腹に一撃を入れていた。ずんっという音と共に、身体がゆっくり地面に沈んでいくのが見える。
「まだいたのか、しつこいね。ってかあんたら一体なんなんだい?」
ねねは心底面倒くさそうに顔をしかめると、倒れた男の脇腹に蹴りを入れた。
「なつの大事な友達に手を出そうとしやがって」
「ねねの姉貴……」
甚五平が暗闇の方をじっと見ると、その身を低く構えた。
「他にもまだいますぜィ」
その言葉にねねはくんくんっと鼻を鳴らす。
「……本当だ。血なまぐさい奴らだねぇ」
甚五平につるを担ぐように指示すると、「小西様、走れますか?」とねねは小さく耳打ちをした。
「ああ、もちろんだ。この先に元種麹やの糀屋菱衛門がある。そこに向かおう」
「御意」
襲われた場所は、思った以上に糀屋菱衛門に近かった。息があがる前には、蔵が見えてくる。
真っ暗な中で何者かに追われているというのは、精神的重圧だった。何人いるのか、どのくらい近くにいるのかわからない。いつ後ろから斬りかかられるかわからないという不安は、相当なものだった。
「入口は開いているはず……駆け込め!」
4人はなだれ込むように蔵の中へと飛び込んだ。喜兵寿と直は麹蔵の中にまだいるのであろう。蔵はしんっと静まり返っており、自分たちのぜぃぜぃという呼吸音だけが嫌に響く。
追っ手は自分たちがここに入るところを見ただろうか。ここまで押し入ってくる可能性はあるのだろうか。
小西は引き戸を強く押さえながら、外の気配に耳を澄ます。しかしそこにあるのは深い無音のみで、だからこそ余計に何者かの気配があるような気がしてしかたなかった。
(3つ。3つ数えて動きがなければ、まずは蔵の奥に逃げよう……)
静かに深く息を吐き、数を数えようとしたその時だった。
「ちょっと~あんたたち。こんな夜中に何してるのぉ?蔵の入り口で逢引き?趣味悪いわねえ~」
拍子抜けするような声に振り向くと、糀屋菱衛門の店主である金ちゃんが眠そうに立っていた。
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。







