あの一杯は何処へ? 西海岸ブルワリー閉鎖ラッシュを“ビール片手に”真面目に考えてみた

2025年アメリカのクラフトビール界は、西海岸ですごい転換点を迎えたかもしれません。11月サンフランシスコの象徴的存在の21st Amendment Brewery、オレゴンの老舗Rogue Alesの閉鎖は、単に企業の閉鎖ではなく、何か大きな終焉を迎えたような気がしたほどです。晩酌しながら思うのは、今年はビール市場の空気がうねった年だったような。今回はちょっと前を振り返りつつ、今年の事、2026年以降どうなるかを私なりに整理してみました。
①パンデミックから復興それからの振り返り
パンデミック明けの2022年から2024年にかけて、アメリカのクラフトビール市場は「多様化」と「過密化」が同時進行しました。コロナ禍からの回復期と重なり、新規ブルワリーは地方都市や郊外にも広がり、タップルーム併設型の小規模醸造所が急増。スタイル面ではヘイジーIPA、サワーエール、フルーツビールといったフルーティーで飲みやすい傾向が続き、苦味やモルト感のあるクラシックなスタイルはやや後景に退く傾向にありました。
一方で、ハードセルツァーやRTDといった代替アルコール飲料が急成長し、パンデミック中の健康志向の高まりからノンアル系も一気に台頭。従来クラフトビールを支えていた“呑んべえ層”が分散したのも、この数年の大きな特徴です。かつては「仕事帰りにとりあえず一杯」=ビール一択だったものが、選択肢の多様化によって、ビールは“数ある選択肢の一つ”へと変わりました。
さらに、原材料費・人件費・不動産価格が同時に上昇し、ブルワリーの固定費は確実に上昇。売上が伸びているうちは意識されにくかった経営リスクが、ここ数年で蓄積し、表面化していった印象があります。
こうした構造的なひずみが、2025年に入ってついに“見える形”になりました。
②2025年の出来事と晩酌の変化

2025年を象徴する出来事が、21st とRogueの閉鎖です。創立25周年の記念パッケージまで制作していた21stは、サンフランシスコ・ジャイアンツ球場近くに位置し、スポーツカルチャーと観光動線を結びつけた成功モデルでした。一方Rogueは、近所のスーパーでも手に入る全米流通に成功した、西海岸クラフトの象徴的ブランド。この両社が同時期に姿を消した意味は、業界にとって極めて大きなショックでした。
両社に共通するのは、「広域流通・大規模設備・高固定費モデル」への依存です。サンフランシスコ・ベイエリアではここ数年、倉庫や醸造施設の賃料が急騰。余談ですが、サンフランシスコの最低賃金は現在時給19.18ドルで、実際にはこれ以上支払われているケースも少なくありません。加えて2024年以降、ディストリビューターの統廃合が進み、不採算ブランドの取扱縮小が加速しました。結果として、“売れていたはずのブルワリー”ほど、流通と資金繰りの両面から強く圧迫される構造が露呈したのです。
一方で、西海岸では別の動きも進んでいます。ベイエリア近郊のオークランド周辺では、年産数百バレル規模の極小ブルワリーが増加し、流通に頼らずタップルーム直販やサブスクリプションのみで成立するモデルを、最初から選ぶ動きが目立ってきました。先日訪れたポートランドでも、同様の傾向を実感しました。ブルワーの手仕事をそのまま感じるような、フレッシュなビールを堪能してきました。大量生産から、確実販売へ。2025年は、その転換がはっきりと可視化された一年だったように思います。
こうした環境下で生き残りやすいブルワリーモデルは、自ずと「スモール&ローカル」へとシフトできるところでしょう。ブルワーズ協会によれば、全米のクラフトブルワリー数は9,269件と前年から1%減。特にマイクロブルワリーが-3%、タップルームも-1%と落ち込みが見られます。
今後は、規模を抑えて直販重視、背伸びしないタップルームの地域密着型営業による“ウルトラ・マイクロ・ブルワリー”が主流になっていくと見られます。大規模な設備投資を避け、固定費を抑えることで、景気変動やコスト上昇への耐性を高めていく戦略です。また昼はコーヒーや軽食、夜はビールと食事というマルチ業態や、クラブ会員制・サブスクリプションで経営の安定を図る試みも、今後さらに加速していくように感じています。アメリカ人は食事と飲酒を分けて考える文化が根強い一方で、“居酒屋スタイル”をもっと柔軟に取り入れてもいいのかな、と個人的には思っています。

加えて、ビールそのものの中身も変わりつつあります。生産量が減るなか、少数ながらラガーやセッションビール、アルコール度数の低めのビールへと舵を切るブルワリーが増え始め、飲み手の側にも“毎日飲める軽やかなビール”への需要が静かに広がってきているようです。私自身、今年シエラネバダがリリースしたピルスナーを実際に飲み、かつてのホップ至上主義から“日常に戻るビール”へと向かう潮流を、はっきりと体感しました。飲み疲れないスタイルは“固定ファン”をつかみやすく、価格変動にも強いという現実的な強みも持っています。
この変化は、日本の輸入・輸出を視野に入れる方にとって、単に縮小ではなく「モデルチェンジ」を分析・理解する好機かもしれません。“アメリカ=常に成長”という幻想が崩れた今こそ、なぜ市場が縮小し、どこに価値があるのかを考えることが、次の輸入戦略・醸造戦略の鍵になるはずです。
③まとめ+来年は…

2025年は、私にとっても忘れられない年となりました。何よりビアEXPOの手伝いができたこと。そしてビアラバーの聖地・ポートランドへ足を運べたこと。また、アメリカのクラフトビール界は、21st Amendment、Rogue Alesの閉鎖を通じて、「拡大」から「持続」へと大きく舵を切った一年でした。カリフォルニアをはじめとする西海岸では、大規模化よりも“小さく、確実に続ける”ことが、経営の最優先事項になりつつあります。
ただ、クラフトビールは衰退しているのではありません。無理な成長を終え、再び“生活に根ざしたお酒”へと戻り始めている…私はそう感じつつ晩酌をしております。
さて、2026年は、カリフォルニア第二の都市・サンディエゴを巡ってみる予定です。
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