[ブルワー]2013.6.1

Cheers!In Guam~ISHII BREWING CO.訪問記2013~ その4 軌跡

Cheers!In Guam~ISHII BREWING CO.訪問記2013~ その3 素顔 の続き

 

大学卒業後、大手不動産会社に入社したToshiさん。この頃は、まだビール創りの生活とは無縁だった。海外志向の強かったToshiさんは、ロス支店勤務を希望していたが、会社の事情でその夢が潰えてしまう。その後、日本国内で奮闘。営業成績で表彰を受けるほど活躍し、将来を嘱望されていた。

しかし、渡米の夢は捨て切れず、ついに会社を辞めてアメリカへ渡ることに。「アメリカの不動産ブローカーライセンスを取得していたんです」。この当時は不動産業を興そうと考えていた。アメリカのクラフトビールに出会うのはこの頃である。「ライセンスの交付でロスへ行ったとき、ビーチ沿いにブルーパブがあったんです。ビールを注文したら、“うちのドラフトを飲む?”と言われ、そこで創られたエールを飲みました。このとき、ビール創りも仕事にできるんだと初めて思いましたね。元々ビールは大好きで、セントルイス本社のバドワイザーの工場見学に行ったりもしていましたから」。

進むべき道を見つけたToshiさんの行動は早かった。アメリカのブルワリーをネットで検索し、自分の名字と同じ名前を持つことに不思議な運命を感じたある会社にメールを送付。その思いを受け止めてくれたのが、サンディエゴに籍を置き今では従業員400名を抱えるStone Brewing Co.だった。だが、1997年当時、Stoneは創業直後。「僕は7番目の従業員でした。製造は当初、師匠と兄弟子と僕の3人のみ。僕は師匠達の魂を100%受け継いでいます」。そう断言できるほどあまりにも密度の濃い3年間だった。

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醸造スペースの入口に掲げられたバナーには、ISHIIだけでなくSTONEの文字が。これは、師匠から弟子であるToshiさんへ送られた開業祝いメッセージ付の記念品。

 

「うちの師匠は数字じゃなかった。とにかく品質品質品質。そして、自らの口でファンに伝えること。よく“Hey,Toshi、売上や数字は所詮結果だ。それより自分達にしかできない品質を創り上げるぞ!”と言われましたね」。なお、ちょうどこの頃、一人の日本人ベースボールプレーヤーがアメリカで旋風を巻き起こしていた。Toshiさんより1歳年下の野茂英雄だ。「サンディエゴ時代、野茂の試合はほぼ全て観戦しました。彼は日本人メジャーリーガーの道を切り拓いたパイオニア。パイオニアは大変だけど、絶対に楽しめると僕は思っています」。

Stoneでの修行を終え、長野のヤッホーブルーイングで活躍するToshiさんを知っている人はビールファンなら多いだろう。Toshiさんは日本に残したことについてこう語る。「業務店営業展開やブルワー同士のネットワークを作ったりなどしましたが、僕が日本に残した一番のものは“ブルワーがオーナーブルワーになる姿”だと思っています」。

原点に返って、「やっぱり僕は死ぬまでビールを創り続けたい。生涯現役でいたい」と考えたとき、オーナーブルワーになるという選択肢しか残らなかった。それも、アメリカで。「周りが皆唖然とするチャレンジでしたが、僕にとっては必然でした。自分を育ててくれたアメリカのクラフトビール業界の一翼を担い、アメリカに貢献したかったんです」。

開業の2010年、ISHII BREWINGは全米で1850番目前後の会社だった。2013年5月現在、アメリカのブルワリー数は2750社に到達し、さらに700社が準備段階。つまり、間もなく3500社体制になるのだという。アメリカは今、世界でも突出したクラフトビール大国になっている。しかも、それぞれのローカルで支えられており、「規模の大小を問わず、新しい力や若い力が台頭していて、業界全体でパワフルです」とのこと。

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ブルワリーの壁にライセンスが掲げられていた。写真はISHII DISTRIBUTING CO.のもの。幸運を呼ぶと言われる2ドル紙幣が中に入っている。

 

Toshiさんが馴染みもあり、仲間もいるサンディエゴではなくグアムを選んだ理由は単純明快だ。「全米でも珍しいクラフトビール不毛の地だったからです。ないなら僕らがやろう」と。そこには、誰も歩いたことがない道を身一つと家族の協力理解で切り拓いた野茂英雄に通じるパイオニア精神があった。

次回は、挑戦を続けるブルワー、Toshiさんの醸造家としての哲学に迫る。

 

Cheers!In Guam~ISHI BREWING CO.訪問記2013~ その5 哲学 に続く

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この記事を書いたひと

矢野 竜広

ビアジャーナリスト

東京から鳥取に移住したフリーライター、ビアエッセイスト。
ビール好きが高じて、『ビールの図鑑』(マイナビ)の
執筆に携わり、さらには地ビール会社にも勤務。
ビールがある人生の素晴らしさを迷文で発信している。

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