[ブルワー]2013.6.2

Cheers!In Guam~ISHII BREWING CO.訪問記2013~ その5 哲学

Cheers!In Guam~ISHII BREWING CO.訪問記2013~ その4 軌跡 の続き

 

ISHII BREWING CO.以外にマイクロブルワリーが存在せず、ブルーパブもわずかに1軒だけしかないグアム。クラフトビール不毛の地をあえて選んだToshiさんは、一体どんな思いでビールを創っているのだろうか。そのヒントを探してブルワリーの中を歩いていると、予定が書かれたホワイトボードに「初心」の文字を見つけた。

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「初心」の文字に丸が付けられているだけでなく、二重線が引かれている。

 

この意味について尋ねてみると、「僕らの仕事は品質構築。それがすべてです。余計なことをぼーっと考えていると怪我をしたりして、ファンに期待されている品質通りにビールが創れなくなってしまう。品質を高めることありきでいるために、毎回毎回創るときは常に“初心”だと自分に言い聞かせています。品質は嘘をつかない、嘘をついたり妥協するのは結局人間自身だと僕は思います」。Toshiさんは醸造の各作業中も終了後も、その度ごとに工程表の元へ行き、ペンでチェックを入れている。当たり前と言えば当たり前の動作なのかもしれないが、慣れてなお基本を疎かにしない姿勢に感銘を受けた。

そんなToshiさんが大事にしている考え方に「Local Beer」というものがある。ビールは決して工業製品ではなく、生きている農産物。だからこそ、新鮮なうちに周囲や地域の人に飲んでもらう必要がある。「“○○県○○市の○○さんが作った野菜”のように顔が見えるビールが創りたい。僕はクラフトブルワーである以前にここの住民。ローカルでビジネスを起こしてローカルを採用し鍛え上げ、ローカルに支えられ、ローカルに貢献したいと思っています」。

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仕込みで出たモルトカスはグアム島内の儀式で丸焼きにされる豚たちの餌に。こうした小さなことでも地元のためになることは積極的に行っている。

 

と、なるとやはり日本でMINAGOFを飲むことはできないのだろうか。「もちろん、日本のことを考えていないわけではありません。日本にいた頃、僕を支えてくれた方たちにお礼がしたいという気持ちは常にあります。その一つがToshi’s IPAでしたが、自分で創っているわけではないから完璧ではない。それは今も模索中です。ただ、MINAGOFを日本に送るのは違うと思う。基本はそこで創ってそこで楽しむことです」。何よりビールに無理をさせたくないのだ。

そこで、飛び出したのが「FLYING BREWER」という考え。「僕は世界でも珍しいFLYING BREWERという役割を築き上げたいんです」とToshiさんは熱く語る。その心を問うと「輸出するとビールに負担が掛かりますよね。過酷な移動時間と膨大な距離はビールに悪影響です。だったら僕が飛べばいいんじゃない?って。決してビールに無理はさせたくない。その無理は創れる人間が被る。それがFLYING BREWERです」。

Toshiさんは昨年秋、実際にそれをやっている。イギリスで開催された「World‘s Biggest Real Ale Festival」に4回目の参加を果たし、現地のブルワリーでMINAGOFのペールエールを創ったのだ。また、東日本大震災の際は、修行先だったStoneがあるサンディエゴに飛び、震災復興のためのチャリティービール、ジャパニーズグリーンティIPAをコラボレーションで創った。これまでにチェコ、ノルウェー、イギリス、アメリカ、日本でコラボレーションビールをリリースし、現在EUでEU向けToshi Ishiiブランドの将来の商品化も検討しているという。

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ジャパニーズグリーンティIPAの瓶がブルワリーに並べられていた。ベアード、Stone、ISHIIという3者が共演した夢のコラボビールだった。

世界を股にかけ、アクティブに動くToshiさんには、一方で“個として”ではなく“業界として”動いているという自覚がある。「自分の会社を経営するのは前提で、その上でクラフトビール業界のことを考えています。アメリカでは“業界として何ができるのか”という視点が当たり前です。アメリカは国としての歴史が浅い分、業界全体で次へ次へ次へという空気があります。次世代を担う若者達に夢を与えられる人がいないと業界は先細る。“あれを超えたい”“あの人のようになりたい”と思える人やブランドが豊富な業界の未来は実に明るいと思います。言わば自分の後継者がライバルになる。他社に資金提供するブルワリーもあります。アメリカでは平然とやりますね、だからこそNo.1のクラフトビール大国と言えるのです」。

アメリカには“more than one”という言葉がある。それは「一社では何もできない」という生産者側の団結を求める気持ちと、「選択肢は一つより多い方がいい」という消費者側の気持ちの両方を表わす。クラフトブルワリー不毛の地、グアムで奮闘するToshiさんに、この言葉が響いているようだった。

連載コラムの最終回は、Toshiさんの描く将来像について話を聞く。

 

Cheers!In Guam~ISHII BREWING CO.訪問記2013~ その6(最終回) 前途 に続く

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この記事を書いたひと

矢野 竜広

ビアジャーナリスト

東京から鳥取に移住したフリーライター、ビアエッセイスト。
ビール好きが高じて、『ビールの図鑑』(マイナビ)の
執筆に携わり、さらには地ビール会社にも勤務。
ビールがある人生の素晴らしさを迷文で発信している。

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