北海道ブルワリー探訪vol.4【京極麦酒/京極町】

〈画像提供:京極麦酒〉
6月上旬、20℃を超す日が出てきて北海道らしい初夏の到来を感じる。「ミョーキン、ミョーキン」「ギーギギギギギ」とエゾハルゼミが鳴き響く峠を越え、車で京極町へ向かった。
京極町は後志管内の中央部、羊蹄山の東麓に位置する人口約2,700人の町だ。新千歳空港や札幌から車で2時間ほど。蝦夷富士・羊蹄山の伏流水で知られ、基幹産業は農業。ジャガイモ、小麦、ビート、豆類を多く栽培している。
その京極町でビール造りを営むのが、大曲茂生さん・美樹さん(ビアジャーナリストアカデミー19期生)ご夫妻だ。京極麦酒は2024年8月に醸造免許を取得、同年9月に販売を開始した現在2年目のブルワリーである。

局極超で取材当日に撮影した羊蹄山

醸造所の全景〈画像提供:京極麦酒〉
ビール造りのきっかけ
醸造所は小学校が近い住宅街にある。築45年の二階建てを改修したもので、一階に醸造スペースと直売所を併設。二階は改修時に使用予定がなく階段も設けていないため、外観は大きく見えるがコンパクトな造りだ。内部は清潔に整理されており、材料や道具類も見やすく管理されていた。
醸造を担う茂生さんがビール造りを志したきっかけは、複数の想いが重なったことにある。美樹さんの実家がある京極町の名水を見て「この美味しい水でもっと地域を活性化できないか」と日頃から考え続けていた。さらに福島県在住時に訪れたブルーパブで「ビールって意外と小さなスペースで造れるんだ」と気づき、そのブルワリーが地域に活気をもたらしている様子にも大きな刺激を受けた。「京極の水なら絶対に美味しいビールが造れる。そのビールで地域の人たちが集まる場所をつくりたい!」——その想いが醸造所立ち上げの原点だ。
立ち上げまでには約4年を要した。コロナ禍と重なったことに加え、前職が薬剤関係の特殊な職種だったため後任探しが難航し、退職だけで1年半かかった。ビール醸造の体験や土地探しへの動き出しは早かったものの、これらが重なり4年越しの実現となった。修行はイワナイブルワリー&ホテル(岩内町)で行い、設備・製造方法については鈴木栄さん(BIXER BREWING)から多くの助言をもらい、今もその交流は続いているという。

左:大曲茂生さん、右:大曲美樹さん 〈画像提供:京極麦酒〉

京極の噴き出し公園の湧水〈画像提供:京極麦酒〉
工場の設備
設備は500リットルの発酵タンク4基のほか、煮沸タンク、仕込みタンク、湯タンクを備える。タンクはメト社製(中国)で、マニュアルを見ながら自ら組み立てた。届いた箱を開けると入っていたのは完成図面のみ。驚きながらも10日ほどかけてコツコツと完成させた。

500Lの発酵タンク4基

煮沸タンクと仕込みタンク、奥には湯タンク
ビール造りのこだわり
こだわりは大きく3つある。1つ目が「極上の仕込み水」——醸造を志したきっかけそのものだ。2つ目が「自社畑でのホップ栽培」。醸造所立ち上げ前から育て続けてきた自家栽培ホップはすべてのビールに使用されている。3つ目が「安定した品質への挑戦」。定番品・限定品ともに国内品評会で受賞実績があり、品質は客観的にも証明されている。
実は美樹さんはビールが苦手だった。現在の定番商品であるベルジャンホワイトは、かつて彼女が「これもビールなんだ!」と衝撃を受けてビールへの興味を持つきっかけになった「ブルームーン」の影響を受けている。今も苦みの強いIPAは苦手だというが、自社製品のIPAなら飲める。そんな人にも楽しんでもらえるビールを造ること——それも茂生さんの大切なこだわりだ。京極麦酒のビールは「飲みやすい」「食事に合わせやすい」と口をそろえる声が多く、キャッチフレーズとしている「きょうもごくごく きょうごくビール」がよく表れている。

自家栽培のホップ。すべての液種に使用されている。〈画像提供:京極麦酒〉

仕込みの様子〈画像提供:京極麦酒〉

仕込みで麦芽を投入〈画像提供:京極麦酒〉
品評会で金賞受賞のゆずゴーゼ
羊蹄山の伏流水は超軟水で、鉱物成分がほとんどない。その水をベースにスタイルに応じた水質調整を加えることで、どのビールでも滑らかで優しい飲み心地を生み出しているのが京極麦酒の特徴だ。日々の研究と各方面からの助言が実を結び、2026年ジャパングレートビアアワードで「ゆずゴーゼ」が金賞を受賞。地元紙や日本農業新聞にも取り上げられ、反響を経て定番入りを果たした。
ゴーゼはドイツ発祥の塩と酸味が特徴のビアスタイル。そこにゆずをふんだんに使用し、華やかな香りと低アルコールによるドリンカビリティの高さが魅力だ。誕生のきっかけはOEM依頼で考案したゴーゼレシピが先方都合で中止になったこと。頭の中でイメージが出来ていたので自ら実践したくなった。ちょうどゆずの旬と重なる12月だったことで、ゆずゴーゼとなった。現在も醸造のたびに材料の量は変えず投入のタイミングを調整し、ゆずの香りと酸味のバランスをさらに磨き続けている。

〈画像提供:京極麦酒〉
自家栽培ホップへのこだわり
醸造所から車で5分の山道にホップ畑がある。カスケード、センテニアル、ザーツ、ビスタの4種を栽培しており、自ら情報収集して株分けや脇芽摘みを行い、5メートルの支柱を立てて本格的に管理している。農家を営む美樹さんの祖母も草取りや施肥を手伝ってくれることがあり、まさに家族みんなで育てるホップだ。
4年目を迎えた今年は、当初20株だったのを年々増やしていき50株まで増え、年間を通じて醸造に使用できるまでになった。収量は2年前に50キロを記録したが、昨年は雪解け後の株起こしが影響して約20キロにとどまった。今年は株をあまり触っていないため、収量増加への期待が高まっている。

50株の自家栽培ホップ

4種類のホップを栽培し、カスケードの株数が多い。

昨年のホップ収穫の様子〈画像提供:京極麦酒〉
地元らしさの表現方法
「京極町にはこれといった特産品が見当たらないんですよ。近隣も含めてこのエリアで力を入れているものはあるけれど、単独で目立つものがなかなかない。だから特産品にこだわらず、この町で使えるものは何でも使っていこうと思っています」と茂生さんは語る。伏流水以外にも京極を表現できるものを、日々探し続けている。
そこから生まれたのが「ニンジンホワイト」だ。京極町在住の美樹さんの父が愛するにんじん「クリスティーヌ」を使ったビールで、ニンジン香が少なく食味に優れることから生でも美味しく、火を通すと甘みが増す品種だ。実はにんじんが苦手な茂生さんも野菜スティックでも食べられるほど美味しいという。生搾りニンジン、レモングラスや生姜も加えて仕上げたこのビールは、飲み終わりにひょっこりと顔を出すにんじんの香りが印象的な一本だ。
もう一つ、自ら採取した白樺樹液を使ったビールも生まれた。4月下旬に数回に分けて採取した樹液を仕込み水として100%使用したクリームエールで、口に含むと滑らかさと優しい甘さが広がる。白樺柄のラベルも美しく、樹液採取の時期が限られるため季節限定での販売だ。どちらも京極の素材を活かしたビールとして、多くのファンを持つ。

ニンジンホワイトとシラカバエール
町との関わり
町との関係も大切にしており、イベント出展には特に積極的だ。毎年4月には役場とともに香川県丸亀市のお祭りに参加している。明治30年に旧丸亀藩主・京極高徳の命で京極農場が開かれたことが町名の由来で、現在も親子都市協定を結ぶ縁深い地だ。遠く離れた地でも、ビールを手売りしながら京極の名を届けている。
地元や隣町・真狩村のイベントにも毎年顔を出し、「スーパーで買ったよ」「美味しかった」という声が着実に増えてきた。夏の繁忙期には道内外のイベントに飛び回り、ホップ収穫では地元の人々にも手伝ってもらうなど、ビールを通じた人の繋がりを有難く感じ、また大切にしている。

イベント出展時の様子〈画像提供:京極麦酒〉
これからについて
現在の課題のひとつが瓶詰め作業だ。500リットルのビールを数日に分けて瓶詰めしているが、1時間75本が現状の限界。缶充填に切り替えれば効率が大幅に上がると知り、導入を検討している。イベントで他のブルワリーと並ぶたびに季節限定商品の多さが目に留まり、新商品開発のペースアップも意識し始めているようだ。また、醸造所の敷地内にテラス席を設け、買ったビールをその場でゆっくり楽しめる空間づくりも構想している。
もうすぐ開業3年目を迎える京極麦酒。「地域の人が集まる場所をつくりたい」「訪れた人がこの町を大好きになってほしい」という創業時の想いは、着実に形になりつつある。小さな町から二人三脚でビールを通じてその魅力を発信し続ける姿は、見る人誰もが応援したくなる。京極麦酒のこれからに、目が離せない。

羊蹄山が見えるロケーションにある醸造所。ここでテラス席でビールを飲めるのは最高だ

大曲ファミリー。お子さんはビールに興味津々のようです〈画像提供:京極麦酒〉
【購入やSNSの各種情報】
京極麦酒HP
https://kyogokubeer.com/
ECサイト
https://kyogokubeer.base.shop/
Instagram
https://www.instagram.com/kyogoku_beer/
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









