[コラム,ブルワー]2018.7.7

1年でIPAの概念を変えたBREWERY 【ブルワリーレポート GREAT NOTION BREWING編】

2016年の年頭。クラフトビールの聖地といわれるポートランドで、1つブルワリーが誕生した。その名は「GREAT NOTION BREWING(以下、GREAT NOTION)」。ポートランドで初めて「Hazy IPA」をつくったブルワリーだ。醸造開始から2年が経過、現地での人気は非常に高い。どんなブルワリーなのか訪問してきた。

否定から始まったHazy IPA

「何百年前からビールは存在しているが、ショックを受けたり、感動したりするものはそれほど多くはない」という3人の創業者(Andy Miller氏、Paul Reiter氏、James Dugan氏)が、アメリカ東部から購入してきたニューイングランドスタイルのビールに感動したことがHazy IPA誕生のきっかけだ。

「これはIPAではない」。

これは1年前、初めてHazy IPAをつくったときのブルワーコミュニティからの評価だ。IPAは、ポートランドでは最もつくられているビアスタイル。セッションIPAをはじめ、派生するビアスタイルがあるなか否定的な見方を多くされた。

それから1年。いまやどのブルワリーに行ってもつくられるようになっている。評価を変えたのは何だったのだろうか?

「評価が変わったのは、お客さんのSNSやコンペティションでの受賞です。『このビールは美味しい』という声がこのビールを良い評価に変えました」。こう教えてくれたのは、「GREAT NOTION」ブリューパブ店長のThomas氏。

「GREAT NOTION」のビール。1番手前が、Double Stack。インペリアルブレックファーストスタウトというスタイルを名付けている。この他にもサワーHazy IPAをはじめ、個性的なビールが多くある。

「オ州酒ブログ」のRed氏によれば、「ビアギークは新しいビールを飲むのが好きで、彼らがインフルエンサーの役割を果たしている」。SNSを通じて、ビアギークが「美味しい」と感じたビールを伝えることで、新たなムーブメントが起こるという。

また、「醸造規模の大きいブルワリーとコラボレーションすることで、相手方のノウハウを勉強することができます。それにより評判も高くなります」とThomas氏は話す。

800Lのビールが2時間で完売!?

「Hazy IPA」「サワー」「アルコール度数が少し高く甘味が強いスタイル」の3種類が軸となっている。「これらが人気なので、他のスタイルのビールはつくっていません。ブルワーたちもこの3種類をつくるのが大好きですね」とThomas氏。

ブリューパブ前で撮影に応じるThomas氏。

「ビールを飲みなれていない若い世代からも私たちのビールは『飲みやすい』と評価されている」。

ブルワリーは様々なお店が立ち並ぶ地域にあり、ここを訪れる半分は観光客で、日本人もよく訪れるという。週末には、ビールを求めるお客が朝から列をつくる。「今は1回の仕込み約800Lと醸造設備も小さく、販売はブリューパブとクラウラー(※1)での提供のみです。クラウラーは人気で、すぐに売り切れてしまいます。現在、第2工場を準備中でまもなくオープンします(※2)。最初は醸造のみですが、タップルームもスタート予定です。新工場は30バレル(約3500L)の製造が可能になります」とThomas氏。

※1 アルミニウム缶にタップからビールを入れ、蓋で密封する容器。グラウラーのように再利用はできない。

※2 2018年6月末に第2工場が稼働開始しています(取材は2018年3月4日)。

800Lのビールが2時間で完売してしまうとは、日本では考えられない。改めて、ポートランドのクラフトビール人気のすごさを感じる。今回は、土曜日の午後に訪問したのだが、この日の朝に販売されたビールのクラウラーが数本しか残っていなかった。人気のあまり取材当時は、クラウラーは1人2本までと制限が設けられていた。そのため、ときには「品薄商法にして人気に見せかけているのだろう」と疑いをかけられてしまうこともあるとThomas氏は苦笑いをしていた。

店内の様子。週末ということもあり、店外の席も満席になる人気ぶり。奥にある醸造設備を眺めながら楽しめる。

チャレンジは、新たなステージへ

立ち上げから数年、Hazy IPAにより人気ブルワリーとなった「GREAT NOTION」。どんな未来を描こうとしているのだろうか。

「まずは評価をさらに高めることです。つぎに現在は需要に供給が追いついていません。需要を満たせるようにしたいです。3つ目が新工場は規模が大きくなりますので、もっとバレルエイジビールに挑戦していきたいですね。最後に缶でのビール販売を始めたいです」。

供給については新工場が稼働し始め、醸造規模も4倍以上に増大するので、状況は少しずつ改善されていくことだろう。バレルエイジビールについては現在でも行っているが、工場の拡大により熟成させる樽も多く置けるようになるので、多くの挑戦をしていきたいという。

Thomas氏自身は、「日本料理とのペアリングも試してみたい」と話す。「日本の大手ブルワリーのビールは食事の邪魔をすることはありませんが、私が目指したいのは、より日本食の美味しさを引き出すビールがあれば良いと思っています」。

彼らのビールは、飲むと複雑な味わいなのだが、「おぉ~」とか「わぁ~」と驚きの声をあげてしまう。そして、その後に「美味しい」と言ってしまうのだ。缶の製造ラインが稼働すれば、アメリカ国内の販売網の拡大はもちろん、海外へ輸出する機会も出てくる可能性があり、そうなれば多くのビールファンを魅了することは間違いない。現地に行って飲むのが一番だが、日本でも飲んでみたいブルワリーだ。

創業から2年、Hazy IPAでポートランドのビールシーンを席巻した「GREAT NOTION」。新工場にはブルーパブもオープン予定だ。飲めるところが増えることでより多くの人が彼らのことを知るだろう。またビアギークたちは、新たな挑戦から生まれるビールを楽しみにしている。これからの展開に目が離せない。ぜひ日本のビールファンにも名前を覚えておいてほしいブルワリーだ。

◆GREAT NOTION Data

住所:97211 ポートランド2204 NE Alberta St Ste 101

電話:+1 503-548-4491

Homepage:www.greatnotionpdx.com

Facebook:https://www.facebook.com/greatnotionpdx/

GREAT NOTION BREWINGブルワリーレポート

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビールコンシェルジュ

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは4000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

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