【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 154~蔵の才人と傾奇ブルワー、時を超えた仕込み 其ノ拾漆
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、完成間近!物語完結時に販売する予定です

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「ナイス!つる」
直は大きくガッツポーズをする。
「正直俺もそんなに酵母に詳しいわけじゃないんだけど……生酒ってことは、酵母が生きてる状態で樽詰めしてるってことだよな。だとすれば、その空樽に酵母が付着している可能性は十分にあると思う」
本当にこれで発酵が始まるかは……正直わからない。それでも酵母のいない酒蔵で、ひたすら奇跡を待ち続けるよりはずっといい。
「よし。じゃあ、さっそく柳やの酒樽をもらいに行こう」
しかし、つるは俯いたままだった。
「せっかく可能性が見えてきたのに、なんでそんな暗い顔をしてるんだ?」
「……酒樽の管理しているのは、源にいなんだよね」
つるの言葉で、先ほどの恐怖が直の背筋を再び駆け上がった。脳裡に浮かぶのは、つるを、喜兵寿を返せと叫んでいる、怒りに歪んだ顔だ。
「でも源にい、いつもこっちにいるわけではないし……今伊丹だったら、他の人が番をしているはずだから、どうにかなったりするのかな……」
「つる、残念ながら、にいちゃんは今下の町にいる。実はさっき会ったんだ」
直は本当は黙っておきたかったが、この先の方針を決めるには話すしかない。ため息交じりに、先ほど起きたことをありのままに打ち明けた。
直の話を聞いたつるは、みるみる青ざめていった。襟元をぎゅっと掴み、苦しそうに目をつぶる。
「なるほどな……状況はわかった。だとしたら柳やから酒樽をもらい受ける話は諦めたほうがいいだろうな」
静かに小西が言う。
「直が元凶だと思ってるのならば、びいるを造るために樽を貸すなんてことは絶対にないだろうからな」
小西の意見には常に反発する幸民も、今回ばかりは「そりゃあ無理だ」と頷いた。
「じゃあ、こっそり持ってきちゃうとかどう~♡??場所はわかってるんでしょう?お金さえおいておけばよくない?」
「それこそ大問題だ。お上からの指示で酒を保存しているのであれば、それはもう既に上納されているということ。勝手に持ち出すのは、国から窃盗を働くということになる。もしそんなことをしてみろ。即、小伝馬の牢座敷行きになる」
つまり、酒が入った状態の酒樽を持ち出すことは絶対的にだめで、返却された空になった酒樽なら可。しかし時間が経ったものだと酵母が死滅してしまっている可能性があるため、できるだけ空いたばかりの酒樽が好ましいということになる。
「やっぱり、他の方法を考えるしかないのかーーーせっかく発酵の兆しが見えたと思ったのに」
頭を抱えて叫ぶ直の後ろで、つるが小さく呟いた。
「……わたしが会いにいってくる」
「え?」
「わたしが源にいに会いに行って、酒樽を譲ってもらってくる」
そう宣言する目には、迷いも恐れもなかった。ただ真っすぐに、深く決意だけを携えている。
「わたしが生きている、という喜びがあったとしても、おいそれと酒樽を渡してくれるような人じゃないことは、わたしが一番知ってる。むしろ『酒なんか造ろうとするからだ』って怒られて、ここにはもう戻って来られないかもしれないけど……」
つるは下唇をぐっと噛んだ。
「でも必ず酒樽は届けるから。わたしが行ってくる」
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









