[テイスティング,ビアバー]2018.9.22

味噌がミソ

 7月のとある日。伊勢角屋麦酒(以下、伊勢角と略す)さんの店が出ると聞いた。ヤッホーさんはキリンさんの系列だから別として、常陸野ネストさんに続いてタップマルシェに登場するほど味わいには定評があり、品質も担保されているブルワーだし、伊勢のほうは美味しいものもたくさんあるだろうし。あれだけおいしいなら当然、というか今までなかったことが不思議だ。

 とはいえ、ベルジャンビアカフェ系列のお店からの業態変更なので純粋においしいビールのお店が増えたというわけではないのが残念。その店内はベルジャンビアカフェだったころの雰囲気を生かしたヨーロッパを感じさせる和風になっていた。居心地のよい落ちついた雰囲気を醸し出している。
プレオープンでは伊勢角さんで作っているという味噌や醤油が展示されていた。伊勢角さんが味噌や醤油を作ってるとか社長が酵母愛にあふれている人だとかいうことは伊勢角さん好きには基本情報といえるだろう。醤油よりは味噌に興味があったので、味噌をつまみに飲んでみた。ビールはNeko-Nihiki。NE-IPAという濁りがあってホップの香りが生かされているのにネクターのような柔らかな味わいがあって飲みやすいスタイルだ。このビールは頭の中で猫ひろしが手拍子でねこにひき、と歌ってしまうほどテンションが上がる。これだけ美味しいビールにはつまみなんて必要ない、と思いつつ新しいペアリングを求めて試してみた。旨い。濁った液体が繰り出す甘みと苦味のパンチが味噌の持つ塩味や大豆の甘さと絶妙に混ざり合う。いいなぁ。思わず頬が緩む。

 でも…ちょっと待って、とテンションの上がる自分を私の中にかすかに残る几帳面さが制止する。プレオープンで味噌をなめても本格的にオープンしてからは味噌がないかもしれない。それに、他のビールと味噌の相性も気になる。
というわけでオープンして一ヶ月ほどたったころに再訪した。金曜日ということで空いているのはカウンターのみ。しかも2時間だけなのだという。2時間で勝負してやる!とばかりに慌ててメニューを手に取り、最も味噌と合わないビールはどれだ?と探す。

どれも美味しいので迷う。


Neko-Nihikiは濁っていたのでクリアな液種のゴールデンドラゴンを注文。セッションペールエールというスタイルで、すっきりとした味は一杯目にジョッキで飲みたくなる爽やかさだ。これだけで一つの世界が広がっている。

ゴールデンドラゴンはアルコール度数が4%なのに飲みごたえ充分


味噌とかどうでも良くなってきている自分を抑え込み、フードメニューをパラパラ。味噌単品では載っていない。迷ったときは店員さんに相談だ。「味噌が食べたい」とお店の方に話し、スティック野菜をオーダー。

「スティックサラダと角屋豆味噌」
380円で幸せが手に入った。


味噌がついてきた。味噌をぺろり。思わずにやり。さすが伊勢角さん。味噌自体が旨いんだよ。だから旨いビールと合わせたら大概のものは旨いんだよ。とペアリングの概念を根幹から覆すようなことを思う。1+1が2では上手なペアリングとは言わないのだ。1+1が2や3になる組み合わせがペアリングなのだ。恐る恐るビールを含む。ゴールデンドラゴンが味噌の甘みを際立たせる。味噌もゴールデンドラゴンのクリアな喉越しに深みを与える。次に野菜に味噌をつけてペアリング。大根もパプリカもおいしい、と脱線しそうになる自分を口に含んだビールが呼び戻してくれる。野菜が味噌によって味を強調され、ビールと対等の立場に引き上げる。しかも旨いからと味噌をなめすぎて、野菜があるのに味噌がなくなってしまうという事態に。おかわりをお願いしたら快く出してくださったが、よいこのみんなは味噌の配分に気を付けよう。
では、Neko-Nihikiとスティック野菜+味噌ではどうか?野菜の自然な甘みと味噌の塩味、そしてビールの甘みや苦味がそれらの味わいを複雑にしつつ深く豊かな心地よさで包む。

 スティック野菜は味付けが素材の味と味噌そのものなので味噌を少しアレンジしたものとのペアリングも試す。もつ煮込みだ。

「角屋味噌で煮込んだもつ煮」
これで580円

旨いね、こりゃあ参った。思わずもつ煮込みの美味しさに降参する。ビールが進む。相性がいいとはこういうことか。ゴールデンドラゴンやペールエールと合わせたのだが、少しもつ煮込みが濃い目の味なので流し込むようにビールが消えてしまうのだ。味噌をメインとした味付けだが、味噌そのものよりはマイルドでモルト由来のビールの甘みと相性がいい。しかも、もつの脂分はビールがクリアにしてくれる→クリアになった口の中がもつを欲しがる→ビールで口の中をクリアにしたい→ビールともつ煮込みが口の中で美味しさの組体操をする→飲み込むとクリアになった口の中が…といった無限ループの完成だ。面倒だからもつ煮込みをバケツで、ビールはピッチャーでください、と言いたくなる。もつ煮込みとビールで満腹になって腹が裂けても悦びを感じられるだろう。
 冷静に考えるとカウンターでもつ煮込みとビールはオッサンそのものではないか、と自分に突っ込む。でも、オッサンでいい、この美味しい循環の中にいたいと心が叫ぶ。
そして、このもつ煮込みのポテンシャルはそれだけでは終わらない。黒いビール、例えばインペリアルレッドエールと合わせても別の世界が広がりそうだ。もつ煮込みをバケツで、ビールは全種類と合わせてみたいと次回への妄想が膨らむ。

ふと店の外を見ると立飲みの人が出るほど満席。しかも制限時間が近付いてきた。断腸の思いでお会計を、と告げると味噌汁が出てきた。

じんわりとした温もりが心と体に。

飲んだ後の味噌汁というのは五臓六腑に染みる。
どこまで虜にすれば気が済むんだろう。そういえば伊勢角さんの醤油をまだ試していない。近くに座っていたビアマニアさんは醤油をいとおしそうに眺めていたから醤油も美味しいに違いない。今度は10人ぐらいで来て、ビールもフードも完全制覇したい。そんな美味しいもので溢れている伊勢角屋麦酒八重洲店はできることなら予約するのが望ましい。楽しい時間のためのひと手間をかけることをおすすめする。

店名:伊勢角屋麦酒 八重洲店
住所:東京都中央区八重洲1-4-16 東京建物八重洲ビル B1F (東京駅徒歩5分 日本橋駅徒歩3分)
TEL:03-3281-2300
営業時間:月ー金 11:30-15:00 17:30-23:30 土 17:00-23:00
定休日:日・祝

Neko Nihikiねこにひきペアリング伊勢角屋八重洲味噌

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

川端 ジェーン

ビアジャーナリスト

ベルギービールをこよなく愛しています。笑顔でビールを酌み交わせば世界平和は実現すると考えています。ビールが好きすぎてたまに他人と知人の境目がなくなってしまいます。ビールの美味しいお店で見ず知らずの人に話しかけていたら、それは私かもしれません。
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