樽生ビール設備の変遷から見るスイングカラン【ボクソン工業株式会社インタビュー】
「スイングカラン」
近年、「昭和初期のビアホール全盛時代に活躍」した同設備が再び脚光を浴び始めている。
新規開業店も含め、上記を用いて注がれる樽生ビールを売りにする店舗が、様々な場所で見受けられるようになった。

スイングカラン
特に「注ぎ方」に関心の高いビール好きの間では当たり前のようにその言葉が口にされ、私も幾度となく同設備に関する「注ぎ」や「注ぎ手」の記事を執筆してきたが、その「メーカー」や現在までの成り立ちを取り上げた記事は意外と少ない。
今回は、国内唯一「スイングカラン」の製造を行っている「ボクソン工業株式会社」(以下、ボクソン)を訪れ、現在までの歩みとスイングカランを含めた樽生ビール設備の変遷について、代表取締役「木村 卓治」氏にお話をお伺いした。

ボクソン工業株式会社
目次
スイングカランとは?
「スイングカラン」はビアホールの全盛期、昭和初期の戦前の頃から大阪万博の頃まで主に全国で使われていたとされる可動式のビールの注ぎ口(=カラン)である。
名称の通り、ハンドルを左右に振る(スイング)ことでビールが注出される仕組みだ。

閉まっている状態(左)と開いている状態(中央)。構造も非常にシンプルである(右)。
全国の飲食店で私たちが普段見かける注ぎ口(泡付け機能付き2口カラン:後述)とは異なり、「ビール1杯を素早く、かつ複数杯を連続で注ぐ」ことができるため、大量のビールの注文が殺到する当時のビアホールでは非常に重宝されていた。
【参考映像】八木 文博(元ニユートーキヨーグループ 総カウンター長「8連続注ぎ」(本人提供)
▶https://www.youtube.com/watch?v=0cJUVMFC1vQ&feature=youtu.be
昨今ではその利点はもちろんのこと、操作の自由性(注ぎによるビールの味わいの変化、泡のきめ細かさなどをハンドルの絞り具合で調整できる等)から、ビール注ぎや注ぎ分けに力を入れる飲食店を中心に導入する店舗が増えてきている。
「ボクソン工業株式会社」の誕生
そのスイングカランを現在も唯一、製造・販売しているのが「ボクソン工業株式会社」である。
同社は生ビールディスペンサー(注出設備)の製造・販売を行う国内メーカーの一つであり、1967年(昭和42年)の設立以来、都内や関東エリアの飲食店等に設備を供給し、日本の樽生ビール文化を支える一助を担ってきた。
翌1968年(昭和43年)には「日本初の瞬間冷却式生ビールディスペンサー(現代主流のビアサーバーの原型)」を開発している。
(木村)『元々は「株式会社オーケー製作所(以下、オーケー)(※1)」という会社がありまして、わが社の初代社長である父(木村 茂:きむらしげる)もそこで樽生ビール用の円筒型冷却器(後述)やスイングカランを製造しておりました。大きな転機になったのが1970年(昭和45年)の大阪万博前後の時期。各ビールメーカーが万博を契機に「ステンレス製樽」を本格採用する流れになりました。弊社はその数年前、日本に初めてステンレス樽が輸入された頃に設立したのですが、上記を見越して瞬冷式ビアサーバー製造に着手し始めたという経緯になります。』
ボクソン自体も創業当時(万博開催前)から空冷式及び瞬冷式ビアサーバーの製造・販売と共にスイングカランを製造しており、現在に至るまで主にアサヒビール及びサッポロビールとの取引を行っている。オーケー閉業後、他メーカー含め同設備の製造・販売・メンテナンス事業は同社のみとなった。

「スイングカラン自体は、オーケー以前から存在していた」と語る木村。ボクソン製(左下)・オーケー製(右下)・各メーカー製以前から存在していたスイングカラン(中上:出所不明)。接続部も「埋め込み式→ナット式」に変更されているのが分かる(一部パーツのないものもあり)。
(※1)国産樽生ビール注出設備の草創期メーカーの一つ(現在は閉業)。社名は代表お二人の頭文字(小原[O]と木村[K])から。ちなみにボクソンの社名は「木村」の音読み(ボク・ソン)が由来。
現在のビール注出設備 -「瞬冷式ビアサーバー」と「空冷式ビアサーバー」-
当時から現存するビアレストランやビヤホール(「神谷バー」「銀座ライオン」「ニユートーキヨー」「ランチョン」などが代表例:五十音順)を含め、現在もスイングカランを愛用している店舗は全国に存在するが、
現代においては、ステンレスの生樽に「瞬冷式ビアサーバー」と「泡付け機能付き2口カラン」を組み合わせたシステムが広く採用されている。
スイングカランを含めたビアサーバー設備の変遷を理解するためにも、一度これらのシステムについて説明していこう。
樽生ビールの注出設備は大きく2種類に分類される。
大手居酒屋チェーンや一般の飲食店に広く採用されている「瞬冷式ビアサーバー」と、クラフトビールを含めたビール専門店で主に採用されている「空冷式ビアサーバー」だ。
「瞬冷式」は、常温に置かれた生樽からビールがサーバー内に引き込まれ、そこで飲用温度まで急冷される仕組みだ。機内にはアイスバンク方式による氷と冷媒(冷水)が満たされており、ステンレス製のビール管がその中に沈んでいる。水を撹拌することで水全体を冷やし、ビールは管内を通る間に急冷されて注出口(蛇口:カラン)から出てくる寸法だ。
注出口は液体を注出する口と泡付けする口の2つが付いた「泡付け機能付き2口カラン」が一般的であり、優しく注いだ液体の上にきめ細やかな泡を乗せることで、「どのお店でも簡単に同じ品質のビールを注げる」ように設計されている。

瞬冷式ビアサーバーシステムのイメージ図。

瞬冷式ビアサーバーの外観(左)とその内部(中央)。氷と冷媒(冷水)が満たされており、螺旋状に巻かれたステンレス管(中央写真・手前)内をビールが通る間に急冷される仕組み。泡付機能付きの2口カラン(右)とこの組み合わせが広く採用されている(同社提供)
『空冷式(又は樽格納式)』はいわゆる、大きな冷蔵庫に樽生容器が入っていると思えばわかりやすい。冷蔵庫内で冷やされたビールがそのまま注出口から注出される仕組みになっている。特にクラフトビールは基本的に要冷蔵商品がメインなため、同専門店ではこちらのタイプが圧倒的である。

空冷式(樽格納式)ビアサーバーのイメージ図(左)。冷蔵庫内に生樽が格納されている(右)。
注ぎ口はひと口のシンプルな構造のものから、用途に応じて様々な形状が存在し、「スイングカランも空冷式ビアサーバーと共に運用」される(理由は後述)。
また、これらは主に「冷却方法」の違いであり、樽生ビールの注出には「ガスボンベ(ガス圧源)」が別途必要となる。一般的には「炭酸ガス」が使用されるが、下記の通り「ビールを押し出す」「品質を維持する」役目を担っている。
- 加圧することで、樽内のビールが注出口まで押し出される(いわばポンプの代わり)
- ビールに溶け込んでいる炭酸ガスが抜けるのを防止する(逆に言えば、加圧しすぎるとピリピリとした味わいになるので適正なガス圧管理が必要)
- 空気(酸素)で押し出すと、ビール内の炭酸が抜けていくだけでなく、味わいが劣化する要因となる(酸化)
時代は「木樽+円筒式冷却器」から「ステンレス樽+瞬冷式 or 空冷式ビアサーバー」へ
なぜ、「瞬冷式ビアサーバー(と泡付機能付きの2口カラン)」が広く採用されているのか?
ビールの「容器」の観点も含めて整理していこう。
日本で初めて商業的なビール醸造が行われたのは1869年(明治2年)。横浜の外国人居留地でローゼンフェルトらが設立した「ジャパン・ヨコハマ・ブルワリー」であり、その後、同じく外国人の手によるビール醸造所が次々に誕生していった。
翌1870年(明治3年)にはウィリアム・コープランドにより「スプリングバレー・ブルワリー」が、その跡地には「ジャパン・ブルワリー・カンパニー」が1885年(明治18年)に誕生し、1888年(明治21年)には同社から「キリンビール」が初めて発売されたというのは有名な話だろう。
(なお、1870年設立の「スプリングバレー・ブルワリー」
この頃の樽生ビール容器はワインと同じく「木樽」。「ガラス瓶」は高価な輸入品であったこともあり、戦後までしばらくは業務用として活躍し続けた。
(ちなみに「ビール瓶」の国産化は1889年(明治22年)。「有限責任品川硝子会社」で手吹きのビール瓶の製造に成功、その後の王冠の国産製造が開始(1908年 : 明治41年)し価格が下落したことで、明治後期~大正の時代から普及し始めた。)

昭和初期の樽生ビール注出設備資料(出典:『生ビール読本』(大日本麦酒、1933年頃) 所蔵:サッポロビール株式会社)
実際に、当時の注出システムを再現して頂いた。

各種器具とその名称。放出器・竿カランはボクソン製で、当時のメーカーによって様々な形状が存在した。

ビールが詰められた木樽(①)は、王冠が内側についた栓(⑤)で封をされた状態で納品される。そこに、放出器(③)をはめ込む。ナットが2つ付いており、下部ナット(⑥)を締めることで栓と放出器を固定する。

上部ナット(⑦)を緩めた状態(竿カランが上下に自由に動く状態)で放出器に竿カランを挿入し、勢いよく上から竿カランを木樽(栓)に打ちこむ。

打ち込んだ勢いで栓の王冠が外れ、竿カランが木樽内に挿入される。竿カランの先端を木樽の最底部から少し浮かせた位置(液体を吸い込みやすくするため)に調整後、上部ナットを締めて固定し、注出可能な状態になる。

直出しで注ぐ場合、接続器を下に向けてコックを開けば注出することができた(左)。ポンプ等で押し出して注出する場合は放出器にビールホースや各種必要パーツを接続する。
(木村)『万博前は木樽と注ぎ口までの間に円筒形(又は角形)冷却器を取り付けて、冷やされた木樽内のビールを再冷却して注出する設備(上図)をオーケーで製作しておりました。父(木村 茂)がこの「木樽+円筒式冷却器」方式は今後続かないだろうと判断して、異なる注出設備へ路線に切り替えることを決めたんです。方向性の違いがあったというより、「みんなが納得しないなら、別れてそれぞれ進もう」という形だったと聞いています。』

円筒式冷却器とその内部。瞬冷式ビアサーバー同様、円筒形冷却器の中にビールが通る管が巻かれており、その周りを氷水で満たすことで、木樽内のビールが冷却器内を通る際に冷却され、注出口(カラン)から冷えたビールが注出される。
「容器」「冷却方法」「注出口」-新システムの確立と普及-
この「木樽+円筒式冷却器」の組合せは「当日中に飲み切ること(=大量消費が必要)」が前提、かつ木樽は基本的に「20L」サイズであったため、一般の飲食店での導入にはハードルが高かった。
その点、大阪万博を契機に普及した「ステンレス樽」+「瞬冷式ビアサーバー」により上記のリスクが解決された。かつ「樽を常温で使用できる(=生樽を入れる大きい冷蔵庫が不要な)」ため、こちらを用いて樽生ビールを提供する飲食店が次第に増えていった。
また、瞬冷式ビアサーバーにはスイングカランが使用できなかった(※3)こともあり、「1口タッチカラン(レバーを手前 or 奥に倒すことでビール注出や泡付けができる1口タイプのもの)」が共に開発・採用された。
その後、誰でも泡付けが容易な「泡付け機能付き2口カラン」が誕生し、「ステンレス樽(常温管理)+瞬冷式ビアサーバー+泡付け機能付き2口カラン」という組み合わせがより一般的となったわけである。
(結論、スイングカラン自体が使われなくなったわけでなく、瞬冷式ビアサーバーの誕生により樽生ビールの導入が容易になった=樽生ビールの提供を始める飲食店が増えていったということだ)

右から「スイングカラン」「1口タッチカラン」「泡付け機能付き2口カラン」。内部構造が説明しやすい、同社専用のサンプル品。
(木村)『オーケーは万博後もスイングカランや円筒冷却器の製造といった路線を続けていて、瞬冷式ビアサーバーには手を出さなかったんですね。閉業後、スイングカランの製造は弊社のみとなり、オーケー製の同設備のメンテナンスも対応しています。』
(※3)「瞬冷式」と「空冷式」では注出時の適正ガス圧が異なる。前者が「0.22-0.24 MPa(2.2-2.4Bar)程度:最大4.0Bar」、後者が「0.12-0.15 MPa(1.2-1.5Bar)程度:最大2.0Bar」。「瞬冷式」はより強いガス圧をかけることを想定して設計されており、スイングカランは上記の圧力には対応していない。
注出の理論や設備等にご興味のある方は、こちらをご覧いただきたい。
【ビール注ぎを継ぐ-スイングカランを含めた注ぎ手の技術を学ぶ-】
▶https://www.jbja.jp/archives/48355
「価値体験」「本物志向」-「スイングカラン」が求められる時代へ –
それでも、今の時代もスイングカランは生きている。既存店のメンテナンスや新規出店はもちろんのこと、他にも年間50台ほどの新規製作依頼を頂いているとのことだ。
スイングカランの魅力とは何なのか?
(木村)『やはり注ぎ方の自由度が高いことが魅力ですかね。注出前のビールが冷えてさえいれば、ビールの味わいや見た目をいかようにも表現することができます。瞬冷式ビアサーバーは常温の樽生ビールをサーバー内でしっかり冷やさないといけないので、流速に制限(1秒間に25-30ml程度)がどうしてもありますね。それに対してスイングカランはガス圧などを調整することで流速を自由に設定可能です。また、スイングカラン自体の耐久年数は、30年くらいを想定していて、メンテナンスさえすれば長く使用することができるのも利点です。』

ビアホール全盛期は1日1000杯を超えるビールを提供する店舗も存在した。摩耗によりかみ合わせがずれたスイングカランは穴を広げ、液体の通り道を調整する。使い古した方(左)は新品(右)に比べ円が楕円になっている。
合わせて、スイングカランの製造工程を伺ってみた。
(木村)『本体は鋳物ですが、中の可動部分は棒材から削っています。これらを機械加工して、研磨して仕上げます。加工屋さんで機械加工をしてもらい、そこから弊社で最終仕上げをするという流れです。』

「鋳造 → 機械加工 → 研磨 → 組立 → 検査 → 表面処理」と仕上げていく。外注と内製を組み合わせ、精度管理は最終的に社内で行う。内部構造は創業期から基本的に変わってない。
(木村)「スイングカランは本体と可動部分(閉止)を組で管理しています。それぞれ噛み合わせの相性があって、1組しか持っていない店なら問題ありませんが、複数あると入れ替わってしまうことがあります。なので、全て製造番号の刻印が押されています。」

製造番号の刻印。上記は「16」なので、16台目ということになる。
「ファッション スイングカラン」にならないために
最後に、店舗スタッフ向けの内容になるが、スイングカラン使用時の基本設定は以下のとおりである。
- 「空冷式」ビアサーバーシステムで運用(ビールホースは内径9mmのもの。一般的には5mmが用いられている)
- 生樽とカランの合間に「予冷器[ライン長20m](※4)」を挟み、全ビール長さをビニルホース部も含め25m前後に設定
(※4)螺旋状のステンレス管がボックスの中に設置されている。通常、ビールラインはビニル製であり、特段冷却能力はない。その代わりに上記をラインの途中に装着し、冷蔵庫内に設置、または機器内に氷水などを満たすことでビールの通るステンレス管が冷やされ、ビール抽出時の冷却を促進する。瞬冷式ビアサーバーほどの冷却機能はないため、あくまで補助的な役割である。

ボクソン製スイングカラン使用時の推奨設定(左)と予冷器の内部(右)。ビールラインをステンレス樽にヘッド(接続器具)で接続する。その先が予冷器(右奥)と繋がっており、さらに注出口(スイングカラン)へとつながっている。
(木村)『ガス圧は基本設定として1.5 Barくらいですが、店によっては1.2〜1.8 Barくらいまで幅がありますね。ちなみに、当時はライン径はインチサイズ(3/8inch = 9.5mm)で、錫製の冷却管を30尺(約9m程度)巻いているだけでした。』
現在、スイングカラン設置店は次第に増えているが、その現状についてはどのように感じているのか?
(木村)「スイングカランで美味しいビールを提供するお店が増えることは嬉しく思っておりますが、同時にちゃんと理解した上で使っていただきたい、という気持ちは強いですね。ロスが出る、扱いが難しい、それも含めて受け入れてもらえる人に届けたいと思っております。」
スイングカランの特性として、その「操作性の自由度」と引き換えに、下記のような「扱いのむずかしさ」もあると言える。
- 正しくビールを注出するには一定の熟練度が必要
- 正しく注出できないと、注がれたビールが泡だらけになる(ビールロス増加)
- 1杯ごとに、又は注ぎ手によって味わいにばらつきが生じやすい
- 上記を含め、品質の安定化やビールロスの軽減のために様々なコストがかかる
「スイングカランを使っている=物珍しい・美味しい(つまりはプロモーション先行)」ではなく、「店主(またはお客様)が思う美味しいビールを注ぐためにスイングカランが必要」というこの順番が大事だと私は思っている。
上記を前提としたうえで、スイングカランから注がれる「至高の1杯」によってビール好きが一人でも増えてくれるのなら、私も嬉しい限りである。
そして、、、お読み頂いた皆様には、ぜひ「設備」とそれを製造・販売する「メーカー」にも思いを馳せてビールを味わっていただけたらなおのこと嬉しい。
「美味しい」の一杯のために、今日もメーカーは試行錯誤しているのだから。

この1杯の背景にある設備やメーカーにも思いを馳せて。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









