[コラム,ブルワー]2022.7.8

麹×ビールは「日本独自」に一石を投じることができるのか?

現在、国内ではたくさんの種類、強いては「ビアスタイル」のビールを飲む機会に恵まれている。ピルスナー、IPA、ペールエール、、、
しかしどれも海外をルーツとしたスタイルであり、「日本発祥の」と確実にいえるものが未だないのが現状だ。

その中で、筆者が「日本発祥のスタイル」として今後注目されるのでは?と期待しているのが「麹(こうじ)」を用いたビールたちだ。

■麹とは?その役割とは?

そもそも「麹」とは何なのか?これは原料となる蒸した穀物に「麹菌」を繁殖させたものだ。「麹菌」はカビの一種で、麹カビ菌などとも呼ばれることもある。胞子の大きさは3-10μmで(ビール酵母は5-10μm)、主に日本酒に用いられる「黄麹菌」、主に焼酎に用いられる「黒麹菌」「白麹菌」といった種類がある。麹菌は他にも醤油や味噌の製造など、日本の食文化には欠かせないものであり、2006年には「国菌」にも認定されている。

ちなみに、ビールなどの発酵に用いられる「酵母」は「糖 → アルコール+炭酸ガスに変える(アルコール発酵)」のがお仕事だが、麹菌が働くのはその前段階。各種酵素を用いて穀物に含まれるでんぷんを糖に分解したり、酵母の栄養源や旨味につながるアミノ酸などを供給するのが役割だ。

通常のビール醸造では麹は使用しない。上記の役割は「麦芽」が担っているからだ。ビール造りの基本材料は「麦芽」「ホップ」「水」「酵母」の4つであり、大まかに下記の手順で醸造される。

  • 麦芽と(温)水から甘い麦汁を作る【糖化】
  • 上記の麦汁を煮沸しながらホップの香りや苦みを付ける【煮沸】
  • 冷やした麦汁に酵母を入れアルコール発酵・熟成させる【発酵・熟成】

麦芽にも各種酵素が含まれているため、①の段階で麹菌を使わなくともビール造りに必要な(下線部の)効果を得ることができるのだ。

■麹がビールに与える効果とは?

では、何のために麹を使うのか?麹を使ったビール醸造の第一人者でもある一騎釀造-IKKI BREWING-のブルワー「阿久澤 健志」氏によると、麹を副原料として使用する場合、ビールへの味わいへの影響としては下記が考えられるそうだ。

阿久澤 健志

一騎釀造-IKKI BREWING-「阿久澤 健志」氏

麹由来のアロマやフレーバーを付与する

焼酎や日本酒の主原料の一つとなる麹に由来する独特の香りや味わいを付けることができる。麹菌の種類によっても香りは変わり、例えば、黄麹の場合は高級アルコール類やアルデヒド類、ケトン類を主とする「栗香(くりか)」と言われる香りを付与することを期待したりなど。

クエン酸生成を利用した酸味の付与

焼酎造りに用いられ「黒麹菌」「白麹菌」はクエン酸を多く生成する。その酸味を用いたサワー(酸味の効いた)ビールを醸造することができる。通常のサワービール醸造では、乳酸菌を働かせるなどして得た「乳酸」によって酸味を付ける。「クエン酸はより爽やかな酸味が特徴であり、「ジャパニーズ・サワースタイル」としての可能性も期待している。白麹や黒麹にはすでにクエン酸が生成されているため、入れた分だけクエン酸が抽出される。例えば糖化工程で入れた量に応じて酸味がつくので、ケトルサワーリングより短時間に、かつコンタミネーション(雑菌汚染)のリスクを抑えながらサワーエールを醸造できる(阿久澤)。」

麦芽にはない酵素を活用する

麦芽の酵素はビール酵母の好物「麦芽糖」を主に生成する。麹は「グルコース(ブドウ糖)」を主に生成するが、こちらもビール酵母は発酵に用いることができる。例えば、日本酒が高いアルコール度数となるのは麹菌と酵母が同時に働く(「並行複発酵」という)ことが要因の1つになっている。この作用を生かし、しばしば酵素剤を添加して醸造される「ブリュットIPA」に代わりに麹を入れて醸造を試みた例も存在する。

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つまりは、「麹由来の風味の付与」「酵素材として酵素を供給」「クエン酸の供給」の3つの効果が期待できるとのことだ。他にも、「麹から甘酒を作り、酵素を失活させたのちにそれをプライミングシュガーとして2次発酵に使用するなどの応用も可能(阿久澤)」だという。同氏は、取り扱いのしやすさなどから、醸造には米の「白麹」を用いることが多い。

さらに、「私たちクラフトブルワリーのほとんどが、モルトやホップなど輸入原料を主に使っていますが、地元のお米から造られた麹をブルワリーで使ったり、日本酒や味噌蔵とのタイアップなどもしやすい。「オムライス」や「天ぷら」のように、海外から取り入れたものを独自化していくのも「日本らしさ」と捉えるなら、麦芽と麹を混ぜた麹ビールは非常に興味深い分野(阿久澤)」と続けた。

限定醸造ではあるが、同氏が合わせて所属するFARCRY BREWINGの麹を用いたビール「Golden Ale」のティスティングをしてみた。

Golden Ale / FARCRY BREWING

Golden Ale(6.0%) / FARCRY BREWING

ゴールデンエール(Golden Ale)は名前のとおり、淡い金色をしたエールビール。ブロンドエール(Blonde Ale)とも呼ばれおり、麦芽の甘さとホップの香りのバランスが良いビアスタイルです。FARCRY BREWINGではさらに白麹(麦麹)を使うことで、麦芽の甘さ+ホップの香り+ 白麹の酸味でまさに「三味一体」というバランスの良いゴールデンエールとして仕上げました。(同社HPより引用)

  • 外観:かすみあるゴールド、泡立ち、泡持ち良好。
  • 香り:青リンゴのようなアロマに、ホップや麹由来の穏やかなフルーツ、スパイスなどの不確定な香りが奥行きを付ける。
  • 味わい:甘味ライト、苦味ミディアム、ミディアムライトボディ。同様に、皮付きのリンゴを食べているようなフレーバー。ほのかな酸味がどごしのよさを演出し、リンゴ様のフレーバーに深みを与えている。余韻には苦味と麹を感じさせるようなシルキー・パウダリーな口当たりが広がる。

しめ鯖や鯛の昆布締めといった刺身、白子など生の魚介類と合わせたいと感じた。実際、「麹由来のコウジ酸(白・黒麹の場合クエン酸も)といった有機酸が、魚臭の代表である「トリメチルアミン」に対して強いマスキング(消臭)効果を発揮するため、麹を使ったビールは生魚との相性が非常に良い(阿久澤)」という。

現在、日本各地で麹を使った様々なビールへのアプローチが行われている。独自のビアスタイルとして認定されるには、例えば「日本固有の原料や製造方法(独自性)」「歴史の長さ」「追随性(マネしたくなるか)」などが基準として考えられるのでは?と伺ったことがあるが、皆様はどうお感じだろうか?「麹」を用いる手法は、新しい未来を醸してくれそうな予感がしてならない。

IKKI BREWING一騎釀造麹×ビール

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

くっくショーヘイ(佐藤 翔平)

フードペアリング インストラクター

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1989年、宮城県出身。岩手大学卒業。
「酸っぱいビール」に衝撃を受け、5000種以上のビールをティスティング。15以上の酒類資格と調理経験を活かし、フードペアリングに関する執筆や「ビアジャーナリストアカデミー」「アカデミー・デュ・ヴァン」「朝日カルチャーセンター」等の講師を務める。
日本地ビール協会公認「シニア・ビアジャッジ」として国際ビアコンペでの審査も行う。

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■執筆・監修■
ビアリング(縁-ENN-)
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・ビール王国(ワイン王国)
・日経プラス1 (日本経済新聞社/日経BP社)
週刊現代 / マネー現代(講談社)
・Get Navi  (学研プラス)
FABEX(日本マッケイン・フーズ)
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