[コラム]2020.3.31

【後編】美味しいビールの条件-コンディショニングの極意-

highburyコンディショニングラガー劣化鮮度

『一番美味しいビールはなんですか?』と聞かれれば、
『醸造所で飲むビール』と答える。

それくらいに(一部熟成を行うものを除けば)、
「鮮度」を守り、「劣化」を防ぐかが非常に重要なお酒であることは間違いない。

後編は、タップから注ぐ前の話。
「コンディショニング」についての極意を、ラガービールをメインにお伺いした。

 

■「当たり前」を「当たり前」にすること

「Highbury-The Home of Beer-」で提供されるラガービールを飲むと、
他ではもう飲めなくなる。
そう言わしめるほどに、ラガーに対する愛情は底抜けだ。

提供されるのは「ヱビスビール」や「サッポロ生ビール 黒ラベル」、期間限定で現地チェコから空輸している「ピルスナーウルケル(※1)」だ。
安藤氏がリスペクトするビアパブを復元したカウンターには、チェコ・LUKR社製の「ノスタルジータップ(※1)」が雄々しい姿を見せる。
特注タップにどうしても注目が集まるそうだが、注ぐまでのメンテナンスが重要と安藤氏は強く念を押す。

「Highbury-The Home of Beer-」の店主・安藤 耕平(あんどう こうへい)氏

●ビールは冷蔵で保管すべきものなのでしょうか?常温ではいけないのですか?

冷暗所保存がいいですね。日本はビールを「輸送する」前提の国です。ヨーロッパではその街でできたものをその街で消費するのが一般的ですが、日本のクラフトビールをはじめ、大手のビールでも地域は決まっていれど全国に出荷されていきます。輸送中はもちろん、お店に着いてからも低めの温度で保存する方がより品質を保てると思います。

●ラガービールを保管する際は何度に設定すべきでしょうか?

当店の場合は12℃の冷蔵庫で保管し、提供時は専用冷蔵庫で夏は0℃、冬は2℃くらいでご提供していますね。
温度が高い方が酸化のリスクが高まります。どうしても容器に詰める際に酸素は微量ながら混入するので、その瞬間から酸化は進んでいくんですね。温度が低い方が酸化の進行するリスクは低いです。
酵母入りや2次発酵ビールは温度が低すぎると発酵が進行しにくくなるので、その場合は別途調整します。

●大手5社のビールなどは「常温保管可能」と書かれたものも見かけますが、こちらも冷蔵保存すべきなのでしょうか?

常温でも問題はないと思います。そもそもどのビールも常温で保管して飲めなくなるわけではないので。但し、品質的に担保を取るなら冷蔵ですね。常温保管可能であっても30℃近い温度に放置すれば味は変わりますし、それ以下でも酸化のリスクは温度の高い方が当然高くなります(※2)。

●ビールも炭酸ガスが含まれますが、衝撃を与えない方がいいのでしょうか?

当店では、樽も缶・ボトルも届いてから冷蔵庫で静置します。来たビールをそのままつなぐってことは100%ないです。次に提供する樽生ビールも全て静置するようにしてあります。48時間の静置ができたらベストですね。届いたら環境の良い所で「そっとしておいてあげること」が一番なんです。

ちなみに、大手ビールは皆様と一緒で一般的な問屋さんを通していますが、それだけで劇的に味が変わります。
営業終了後は洗浄したのち、ヘッドをねじって樽に装着するところまで行います。営業が始まったらあとはレバーを下すだけにして極力振動を与えない為です。異物混入も防げますからね。

大手ラガーもクラフトビールも、次に開栓するビールまで冷蔵庫で静置させている。

 

もし少しでも衝撃を与えてしまったらその樽は提供せず、次の樽を開けます。
過度と思われるかもしれませんが、それくらいの思想で向き合っています。許しちゃうとどんどん許しちゃうんで。そこが当店の強い所だと思います。

●「酸化」や「衝撃」によって、味わいはどのように変わってしまうのでしょうか?

「酸化」は明らかな酸化臭(ダンボール臭)を生じますね。「衝撃」についてはデータを明確に取ったことはありませんが、ビールにとって最も味の安定する適切な状態というのはブルワリーの貯酒タンクの中にある状態です。それに限りなく近づけるという意図があります。僕が静置に徹底的にこだわるのは、カスクエール(※1)のロジックによるインスパイアもありますね。

●ビールは賞味期限内に消費すれば問題ございませんか?

基本的にはそうですが、ケグについては、開栓したら早ければ早い方がいいですね。滅多にないですが、ノスタルジータップで提供しているラガーについては開栓して3日以降の樽は提供しないですね。炭酸ガスも溶けてきて、提供したい味を出すのが難しくなってくるので。

●生樽と瓶、缶。一番保存に耐えうる容器はどれでしょうか?特に缶は遮光性があるが詰める際に空気が入りやすい構造なので早飲みタイプ、瓶は遮光性は缶ほどはないものの、空気の混入は少なく済むので長期保存タイプと聞いたことがあるのですが。

おっしゃる通りだと思います。前述のとおり、ビールは大きい容器で貯蔵するに越したことはないですね。生ビールがより美味しく感じるとか、タンクから飲むものが美味いっていうのはそれです。同じ瓶でも、大瓶(750ml)と瓶(330ml)で混入する酸素量は一緒なので、全体に占める酸化による味の変化は少なくなります。

●洗浄しないことによる味の変化は?その兆候は?毎日洗浄しないとすぐ変わってしまうのでしょうか?

大きく気を付けるべきは「有機化合物」と「雑菌」ですね。ビールにはタンパク質や糖質が含まれていて、ホースなどにたまっていきます。それを餌にしてカビや雑菌が繁殖します。

特に瞬冷式でビールホースが常温部分に出ているタイプは、水洗浄を毎日やるべきですね。当店はラガーも空冷式ではありますが、75℃のお湯を通して、その後冷水をしっかり通す手法をとっています(※3)。温水で有機物を落とし、そのあと急冷して雑菌の繁殖しやすい温度帯(40℃)を極力短く過ぎるようにするためです。また、この際に温水・冷水共に大量に流すことで、ドレーンや排水溝もクリーンにしているので、排水溝から臭いがしません。

参考までにですが、特にクラフトビールを扱う場合の話。洗浄後しばらく使っていないラインにビールをつなぐ際は、CIP(クリーニング・イン・プレイス)を絶対します。
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まず、アルカリ洗浄で有機物を取り除いて、その下に残っている茶渋のような汚れを酸洗剤で落とします。また、洗浄後しばらくそのラインを使わないのであれば、過酢酸を満たしておくのが最適です。ビール醸造でタンクを洗浄する際に使っている洗剤ですね。洗浄し終わっていても、つなぐ際には必ずアルカリ洗浄をしています。

参考までにですが、CIP(アルカリ洗浄)は半月に一回、パーツ洗浄は1か月に一回、スポンジ・酸洗浄は年2回です。
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飲食店さんに洗浄と共に大事にしてほしいのは、COP(クリーニング・アウト・プレイス)。ビールを置く場所の環境ですね。

当店ではカビだらけの冷蔵庫や、生の野菜など他の食品と一緒に入れるのはNGです。
雑菌汚染の原因になりかねないので。

営業後はビールカウンターの床も、漂白剤で消毒してから帰ります。ビールはタップから出たら雑菌の元なので、とにかく飛散したものは残さない。飛び散ったを思われるところにも全てアルコールをして、拭き取らずにアルコールの揮発とともに殺菌します。樽替え時などに飛び散ったビールなども都度きれいに拭き取ってますね。

●普段の衛生管理で他に気を付けていることはありますか?

油脂類ですね。ビールを提供するカウンターは、料理をはじめ、油脂が付着するものとは完全に隔離しています。スポンジもグラスも、ビールに関わるもの全てです。

どんなに忙しい時でも、油脂が付いた手で絶対にカウンターには立たない。皿や調理器具、その他油脂が付いていると考えられるものを触ったら必ず手を洗ってからビールを扱います。グラスを冷やすシンクの水に少しでも油脂が浮いていたら全部とっかえて、シンクも全て洗い直します。有機物を洗浄で落とした意味がなくなるんですよね。実際に見た目も味も悪くなります。

同店はドイツ「FUCHS Gastronomiebedarf GmbH」社の「DELFIN」というグラスリンサーを使用している。しかし、手洗いであれ何であれ、油脂からは完全に隔離され、かつグラスの汚れがしっかり落とせれば問題はないとのことだ。

 

コンディショニングの極意、いかがだろうか?最後にもう一度復習してみよう。

——
<「美味しい」ビールの条件-コンディショニングの極意->

1. 低温で保存することで「酸化」を防げる。常温保管可能なものもあるが冷蔵・定温が無難
2. 届いてすぐは味わいにまとまりがない。静置すると味わいが落ち着く
3.ビールは生もの。ラガーは特に3日を目安に樽が空くように
4.毎日の水洗浄と定期的なスポンジ洗浄だけで汚染はかなり防ぐことはできる
5.油脂はビールの天敵!付着しないような取り扱いを
——

「別段、すごいことはやってないですよ。当たり前をただかかさず毎日やっているだけです。」
安藤氏が会話中に口々おっしゃっていた。

「前日からビールの状態を整えて、当日はレバーを下ろしてちゃんと注いであげるだけ。あとはビールを信じてあげるんです。」

こんな当たり前のことか、と思うかもしれない。
しかし、「当たり前」を日々することで、こんなにお客様に愛されるお店になるならやって損はないだろう。

 

【Shop Deta】
「Highbury-The Home of Beer-」
<所在地>
東京都新宿区新宿1丁目17−5 ミノワビル 1F
<営業時間>
【月~金】17:00〜24:00
【土日祝】15:00~23:00
<定休日>
祝日の翌日(ただしそれが金土日の場合は営業)

公式Facebook https://www.facebook.com/highbury2016/
公式Twitter https://twitter.com/highbury_beer
公式Instagram https://www.instagram.com/highbury_the_home_of_beer/
食べログ https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130402/13200476/

<ご予約・お問い合わせ>
03-6273-2550

※1 同店に関わるビールへのこだわりは紹介しきれないので詳細は割愛する。ぜひ、下記記事をご参照いただければ幸いである。
『 Highbury 』が持つ魅力とは何なのか?
【第1部】- Pub Culture・Nostalgie Tap・Plzeňský Prazdroj 編-
https://www.jbja.jp/archives/14374
【第2部】- Thornbridge・Fashion・YEBISU 編-
https://www.jbja.jp/archives/14487
【第3部】- Cask Ale・GUNNERS BREWING 編-
https://www.jbja.jp/archives/14488

※2 特に30℃を超えると劣化の速度は急激に早まると言われている。
※3 但し、瞬冷式の場合、サーバーに熱湯を通すことは推奨されていない。大手ラガーを提供するのみであれば、日々の水通し洗浄と定期的なスポンジ洗浄だけでも十分に洗浄を期待できる。

→【前編】美味しいビールの条件-注ぎの極意-
https://www.jbja.jp/archives/28801

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05006佐藤 翔平

この記事を書いたひと

くっくショーヘイ(佐藤 翔平)

フードペアリング インストラクター / ビアジャーナリスト

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平成元年生まれ。宮城県出身。岩手で学生時代を過ごす。
卒業後、なぜかガチ工学部→料理の道を選び上京。初めて飲んだ「酸っぱいビール」に感動を覚えて以来、3000種以上のビールを飲んではメモをつけている「ビール変態」であり、お酒をこよなく愛する「資格マニア」。
調理経験を活かし、フードペアリングを中心とした記事を「週刊現代」「Get Navi」など各雑誌に掲載&同アカデミーの講師も務める。
日本地ビール協会公認「シニア・ビアジャッジ」として各種世界ビアコンペでの審査も行う。

■保有資格一覧
日本地ビール協会公認 シニア・ビアジャッジ
同上   公認 ビアコーディネーター
ジャパンビアソムリエ協会公認 ビアソムリエ
日本ソムリエ協会公認 ソムリエ
同上   公認 SAKE DIPLOMA
日本酒匠・サービス研究会公認 唎酒師
同上      公認 焼酎唎酒師
日本ウィスキー文化研究所公認 ウィスキーエキスパート
チーズプロフェッショナル協会公認 コムラード・オブ・チーズ

■記事・出演など
『日経プラス1 2016年5月7日付』など
『週刊女性 2017年5月23日号』
『SPA! 2017年9月12日号』
『週刊現代 2018年9月22・29日合併号』
『ビール王国 Vol.14』
『Get Navi 2016年8月号・2017年7月号・2017年8月号・2018年11月号』
『講談社 WEB現代ビジネス 2019年12月8日更新 イオンの78円ビール「バーリアル」、ここへきてバカ売れの理由』
『日本マッケイン・フーズ株式会社 ペアリング企画』など

・『くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館』出演
・キリンビール『グランドキリン』特設サイト『マイビアクエスト』内ペアリングを全監修
その他、『ビアジャーナリストアカデミー』をはじめとした各種講師経験多数あり

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